連作歌篇「アカトキクタチ」改十一首
先日『ノスタルジア』を見返したせいか急に思い立ち、かつて未来誌に載った連作歌篇で製作当時からその構成に得心のいっていなかったものが先ほど改めて仕上がったので、載せておく。
初出時と比較して、主に変化したことは一首増えたことと、配列を入れ替えたことの二点。それと構成を視覚的にした。
井筒俊彦『意識と本質』を読んでいた時期に重ねてタルコフスキー『ノスタルジア』を観た。その上に朝吹真理子『流跡』を読んだ経験が、この歌群の骨格となっている。それは現れる名詞を見ていただければ明らかなことだと思う。視覚的には、岡井隆『伊太利亜』や高貝弘也の詩篇から受けた影響に負うところが大きい。
アカトキクタチ -Pray for Nostalghia- 山本千景
われらみな囚はれなればあの樹へと流れてやまず意識の水は
滑り出づる刹那あるらむ牢獄に深く繋がる四肢にありせば
流れゆく霞のごとく大らかにあるべきものを庭の五月雨
巫覡して水底ふかき行くすゑの水面に映る水月まどか
しづみゆくしづくしづかにいづくにか咲きにほふらむ蓮のありけむ
あらずあらず移ろふもののただなかに置かれたるのみゆゑに写し絵
本質は花とあらはれそれさへもすでに鏡のなかに古びて
月も日も神のあらはれ。御仏の降臨にしてそれかあらぬか
手遊びの果てに到りつぬばたまの闇より溶けし霧にひたされ
死後の世に賜ふ手形はひさかたの日こそ我らが棲み処と証せ
かたわれに逢ふこともなきかはたれを向うの岸にいまはたそがれ
ルビ:巫覡(ふげき)
ツイキャスにて朗読を行いました。録画を置いておきます。
https://twitcasting.tv/nostalfire_/movie/571390010
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