叢雲堂春秋

古典詩への憧憬を基軸に、書評と随想と ── If you're also a stargazer, feel the emotion. Think the thought. ──

無月流霞抄・壱「落葉の風」

 

Twitter上で、即詠流霞と称するハッシュタグを用いたライブ即詠をもう随分長いあいだ試みている。先日行ったものの出来が良いように思われるため、細部に手を入れた上でまとまった歌群〈無月流霞抄〉として公開することにした。

 

なお、即詠流霞については詠み出した順序を意識の流れとして重視したいため、普段の連作歌篇のように配列に作為を加えることは一切行わなかった。収録しなかった歌がいくつかあり、多少の推敲を試みたのみであることを言明しておく。コメント欄やTwitterのDMによる感想は歓迎致します。

 

 追記:ツイキャスで朗読を行いました。録画しています。

https://twitcasting.tv/nostalfire_/movie/568757521

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落葉の風  無月流霞抄〈壱〉   山本千景

 

さつきまで視てゐた陽溜まりの色がどう視ても秋のそれだつたこと

 

音よりもその冷たさにおどろきぬ秋はさやかに風を羽織れり

 

秋雨の現身を厭き夢に冷め身をばいづれの方に置くべき

 

冴ゆる身に親しく降れるものなれば曝さむものを氷雨な止みそ

 

生きてゐるのが莫迦らしい。注ぐべき愛ありといふ嘘が匂ひぬ

 

放ち遣る胤にうつはのなかりせば百日紅疾く色の褪せゆく

 

精神の余裕は金に負ふものと嘯きながら酒をあがなふ

 

日々の勤めを暇だとおもふ秋の日はあす降るといふ死の雨を恋ふ

 

稼ぐことのおのれひとりのためなれば眩暈せりいまだ酒も飲まなくに

 

俯きて虚ろの空を睨めつけぬゆふべは酒の霊験かなた

 

わけもなく脱ぎ捨てられてゐたりけり泥に塗れて露地の帽子は

 

夢よなう あはれなるべし在ることのつがひ持たねば蓮華散る見ゆ

 

生返事ばかりに遭ひて背骨より

わがくづれゆく

その音ひびく

 

不真面目となりにけるかな!

替への利く

歯車とのみ我を思へば——

 

あすを励んだところで取りかへせないので辞めるか死ぬか里に帰るか

 

ピストルが手元にあれば

今すぐに——

顳顬を撃ち畢らむものを!

 

喰ひ気味の「はい」に疲れて死にさうだ。俺の話に値打ちあらずも

 

ものなべて拒否に見え来る秋の夜を木の葉となりて降るすべもがも

 

終はらざる鬱憂あればいにしへゆ歌の碇は重石となりぬ

 

吐きさうだ。指の震へが止まらない。蝉の骸を柩とおもふ

 

死なせよといふ内圧の高まりに

包丁を持つ

持つだけは持つ

 

掟つべしまた鎧ふべしあはれあはれ生まれ来し日のままの脆弱

 

うちつけに頭(づ)をうちつけてそのままに眠れ今宵を疾く遣り過ごせ

 

人みなの

語らふこゑも金属の

打ちあふ音としか聴こえ来ず

 

くづおれてレジ締めを投げ出しにけり監視カメラが夜をひらめく

 

目に映るすべてのものを蹴飛ばした。なにも起きない心の奥に。

 

取り落とす鍵のうるささ。期せずしてわれがわたしの死に目に遭ひぬ

 

さつきから喉が渇いて仕方なく仕方なく飲むことが愉快だ

 

やけくそに飲むハイネケンやけくそに喰らふファミチキ 死ぬ気ゼロだな

 

秋風のさなかに呷るハイネケン。辛いなあ今はそれがいとしい

 

ガジュマルにとつての水がさしあたり僕にはHeinekenだらう Vie.

 

元ネタがわかる莫迦だけ笑はうぜ。本歌取りつてさういふものだ

 

終電をいつそ逃してしまひなばあすはますます滅茶苦茶ならむ

 

死神の予告のやうに吹いてきた手首に絡む風が痛いや

 

OJT, ヴィジョン、面談、隣なる座席ゆ届くことのはに醒め

 

聖杯のごとくかがやく空き缶のおかはりはつか迷ひてゐたり

 

頭だけは下げて帰らう職業に貴賤あるとか俺は知らねえ

 

法師蝉ゆるびてゐたなさういへば。俺がしんどいのも無理はない

 

放送禁止用語を入れて歌を詠む、爆破みたいな真似がしたいな

 

さう俺は、生まれが左利きなので左手だけでプルタブが開く

 

無頼だ、無頼。おまへら死んでねえんだよ。死にながら詠んだ歌が飲みたい

 

どん底の底の底から這ひあがる、俺は不死鳥。いまに見さらせ。

 

緑色の上着を着ながら緑色のHaineken飲む俺は樹木か

 

どう見ても俺は不審者。モンエナのやうにハイネケンを飲んでる

 

どうせなら瓶で飲みたかつたけどしやあねえ、缶で許してやんよ

 

手に残る麦酒のかをり、それはさう。すこしぐらゐは度を過ごさうぜ

 

目のまへで立ち止まりつるをとこあり。こはいなあおまへ誰の使者だよ

 

気違ひと言はれてもいい、それこそが俺のすべてと頭を下げにけり

 

君たちは莫迦といふかもしれないが雛罌粟の咲く丘で待つてる

 

立ち上ぐる世界かなしゑ訝しゑ歌に満ちゆく嘘の香が Vie.

 

要するに桁はづれだといふことさ。翳りのなかにひかりが淡い

 

目に映るすべてが敵だ。共鳴りの果てに移ろふ私を視留む

 

寝ねざれば心研がれてゐたりけり鉛筆の芯は紙へと尖る